スタジオミュージシャンとして一生やっていくんだと思っていた僕の人生は、パソコンを購入して1年足らずで大きく変わりました。パソコンがなかったら僕は文筆家になることも、大学で教えることもなかったでしょう。でも、すごく矛盾しているかもしれないけれど、僕はパソコンを礼賛しているわけではない。むしろその逆です。パソコンやインターネットは麻薬や覚醒剤と同じくらい恐ろしく害のあるものだと思っているんです。気づかない人が多いようだけど、パソコンが普及してから、人々の心性は大きく変わりました。パソコンはすべての人を批評家にします。何かにっけてケチをつけ、批判し、検討を重ねさせる。消費者は商品に堂々とクレームをつけ、権利を主張するようになりました。たとえば、生意気なアイドルがいたら、ネットで袋だたきして引退に追い込むことだってできる。パソコンの前に座っているだけで、世界中の情報が手に入るので、この世を征服したような万能感がみなぎるけれど、実際は違う。万能感が無力感に変わった時、それを修正するために、「世の中を破壊してやる」、「誰でもいいから殺してやる」という発想に向かう人だっているんです。ブログで今日食べたものを写真ごとアップしなければ眠れない人が大勢いる。「ホントはヒレかつを食べたいんだけど、前回アップしちゃったので今日はロースを食べてアップします」なんて、どう考えてもおかしいですよね。ネットで”つながっている感”があるなんていうけれど、そんなのウソ。白己愛と他者承認をブログで毎日確認する社会ってどうなんでしょう。パソコンの恩恵を散々受けておいて、”裏切り者め”と言われるかもしれない。でも僕はパソコンのもつ万能感が恐ろしい。誰もそのことを認めないけれど、パソコンとインターネットが普及して、世の中がガラッと変わりました。みなさんはどう変わりましたか?
菊地成孔
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